荒野の詩人

 荒野とは

荒野――それは、リンダヴァルバリア帝国とキウェア共和国の間に広がる、終わりなき無の大地。

いつからか、神に見捨てられた荒野という意味を込めて、荒野(アバンナ)と呼ばれている。


遥か昔、この地には強大な王国が存在した。だが、その奢りが神々の怒りを買い、栄華は一夜にして灰と化したという。

以降、数多の国家や勢力がこの地を手に入れようと試みたが、いずれも自らの領域が荒野に侵食されるという奇妙な現象に悩まされることとなった。


最終的に帝国と共和国は不可侵条約を締結し、この地を「アンタッチャブル・ランド」と定める。

そうして荒野は、支配の手を逃れたまま、時代の残滓と夢想家たちの吹きだまりとなった。


いま、この地には――

罪を逃れた犯罪者、掟を拒んだ無法者、土地を定めぬ遊牧民、理想に殉じた無政府主義者、道を探す放浪者、真理を求める芸術家、そして禁忌の知を追う科学者たちが暮らしている。


さらに、荒野には生まれながらに棲まう者たちもいる。

古代王国の使役ホムンクルスとして造られ、いまは自由に生きる小人族。

古の魔術を継ぐ魔女や魔法使い。

王国以前からこの地に根づいてきた土着神や地底人、数えきれぬほどの野生の獣たち。

そして、稀に人間が罹る風土病――聖化症に冒された者たち。

名も知らぬ、ただぶらぶらと歩くだけの謎の詩人も。


混沌と奇跡が交差するこの地で、詩人は今日もまた、新たなる物語を紡ぐ。

地平の果てを目指して、風のままに。



スタート:夜の荒野、星々が輝く。荒野詩人のゆくあてのない行き当たりばったりの旅が始まる。傍らには詩獣がつかず離れず無言でついてくる。自分以外のやつらには見えないらしい。ぽわぽわ毛を手に入れる。


太古の森に迷い込む。臓物を思わせる曲がりくねった古い木の幹が迷路のような森を形作っている。この森は海におけるサンゴ礁のようなもので、様々な弱者が隠れ住んでいる。とうの昔に絶滅したと思われている生き物もチラホラいる。小川のほとりで一服していたら、なれなれしい小人にたばこをねだられる。やつらの嫌いな気取った五行詩を読んで撃退するも、いつの間にか1000ポエット掏られていた。


小川のそばで夜なのに寝もせず鳥たちがぴーちく騒いでいる。反逆の詩を詠む脱獄囚が卵を盗んだらしい。そいつは王国でも有数の政治犯で、小さい頃かことあるごとに様々なものに反抗し、長じるにしたがって反抗の対象はどんどん大きくなりついには太陽に反逆を宣言したという。しかし鳥の卵を盗むあたりが愛嬌があっていい。



急に雨が激しく降り始める。荒野の草の波にぽつんと佇む、この前の大戦で堕ちた戦闘機のコクピットで一休みする。後部座席になぜか古いが高価そうな人形が座っていて、戦前の麗しき時代のままごとの作法を教えてくれた。最初は貴族、次に富商、そして平民と三つの階層のままごとの違いを教えてくれた。その人達のその後は?と聞くと、もう何を聞いても答えてくれなくなった。


ボロボロのモーニングを着た荒野をさまよう老指揮者に合う。演奏会の幕間に逃げ出してからずっと荒野にいるという。木登りが下手なようで練習していた。荒野で木に登れないのはかなりキツイ。ちょっとしたコツを教えてやると大分うまくなった。お礼にひんやりとしたラの♯がしみ込んだ指揮棒をもらう


雷雨が迫る中、不意に思いついた詩を岩に鉄筆で書き殴る。黒々とした曇雲から当たると痛い程の大粒の雨が落ちてきたので、近くのアナグマの巣に素早く潜り込む。アナグマたちは快く迎え入れてくれたので、カチコチのパンを分けてやる。と、轟音と共に稲妻が世界を青白く割って走り、岩に書いた駄詩が神の箴言のように輝く。俺は満足してアナグマと共に少し眠る。古いアナグマの下あごの骨を手に入れる。


夜空の批評家座が先月雑誌に載った俺の詩の比喩が俗っぽいという。痛い所を突かれ、かつそれを岩陰から噂小人に聞かれる。噂小人は荒野を縦横に走る伝声管のようなもので、ほおっておけば来週には荒野中に知れ渡るだろう。1000ポエットで口をつぐんでもらう。1000ポエット失う。


沼からの帰路、荒野に適応したペンギンの群れに出会う。おそらく沼で行水をするのだろう。どいつも埃っぽくペンギンらしい艶やかさは失われていた。やはりペンギンは海にいるほうがいいなと呟いたら、怒り狂ってしばらく追い回された。学者らはかつて滅んだ国の動物園にいたものが、荒野で生き抜く為に進化したと主張している。確かにやつらの足はマラソンランナーのようにしなやかな筋肉に覆われている。ある程度怒りが収まった頃合い見て、全員にコーラフロートを驕りなんとか勘弁してもらう。2000ポエット失う。


編集が盗賊村で俺の詩集が読まれているという噂を聞き、俺に無断でサイン会を企画した。村に入るとたくさんの故買店が軒を連ねており、荒れ地の住人どもがザリガニのように道を行き交っている。サイン会が行われるのは、この村の唯一の本屋で、当然のようにほとんどが盗むか拾ってきたものだが、俺の本はちゃんと仲卸を通して買ったものでさ、とどう見ても本とは無縁そうな精悍な男が言った。店の前に百年前に帝都の聖堂から盗んできたという、この村でも曰くつきの黒檀で出来た枢機卿の机が置いてあり、晴れた空を行き交う雲がよく磨かれた机上を滑っている。しばらくして二十人ほどの列ができて、俺は詩集にサインをした。なかでも馬泥棒の名人が涙を流して喜んでいたのが印象的だった。幸運の蹄鉄を手に入れる。


渓谷の深みで流れる川。若いニジマスたちが川底の不発弾とじゃれついている。ルールはさっぱりわからないが、老ニジマスが湿ったどんぐりを古いガラス器に入れたり出したりしている。湿ったどんぐりを手に入れた


考え事をしていて、うかつにも、比魔人の棲家近くに踏み込んでしまっていた。慌てて引き返したが、そばを突風が吹き抜けたと思ったらすでにかの魔人の手の中だった。ひ魔人は太古の昔からいる土着神の一種で、この荒野でも3本の指に入るほど遭遇したくないない存在である。意外な程整然と並んだ黄色い歯が収まった裂けた口の端を満月のような黄ばんだ目のあたりまで上げニタニタと笑うと、自ら我がとこにやってくるとはお主は勇者だな、よろしい挑戦を受けようと鼓膜が割れそうな大音声で叫んで、近くの河原で石積の勝負をする羽目になった。ルールは簡単で石を順に積んで多く乗せたほうが勝ちというものである。この勝負なら勝ちの目がある。川の水の飲み比べなどでなくて安堵する。勝てば彼の持っているお気に入りのガラクタを貰えるが、負ければ命を失う。偶数なら車のハンドルを手に入れる。奇数なら1に戻る。


半ば埋もれている古代の遺跡にやってきた。太古の偉大な王の霊廟らしい。すでに盗掘されていてぽっかり空いた穴に住むウサギが副葬品の人参三彩をくれた。


馬喰たちが焚火を囲んではやりの電気楽器を演奏しながら歌っている。罵声が峡谷に響き渡っている。その音にいつの時代か定かならぬオベリスクが共鳴して揺れ動き、近くの老柿の実が落ち手に入れる。


ゴマすり小人にほだされていい気になって丘の上で詩を読む、街頭に群れ飛ぶマケドニア大火鳥蛾の影でここいらがまだらに輝き蠢く。小人はねだり取ったタバコを吸いながら物憂げに蛾の群れを見ている。蛾の鱗粉を手に入れる


どこぞの神が落とした財布を拾う。車ほどもあり何らかの神獣の皮で作られている為かフカフカして暖かい。拳大の宝石を押しのけて中に入ってホカホカ休む。神は紙幣を持たないが多くのチャンスを持つ。チャンスを一つちょろまかす。


気宇壮大な気分になりたくて近場の山に登る。ここは鏡山といわれる所で向かい合った二つの山の頂に上るとまるで鏡を見ているように同じ景色が見えるという不思議な山である。小高い山だが、息切れして登りきると、向かいの山頂に誰かいる。手を振ってみると向こうも同時に振りかえしてきた。あれはきっと俺だ。手振りでお前は偉大だと伝えると、ほっとしたように下山を始めた。ふと足元を見ると動物の骨のサイコロがあった。拾う。


日が暮れる。日没の瞬間、ふいに世界が動きを止めた。岩陰のネオン管がグリーンのライトを灯し、隠者のバーが開かれる。マスターは白磁の体で硬質な音をさせてまがいものの聖杯で地下茎を発行させた酒を俺の前に置いた。まがいものの聖杯を手に入れる。


荒野でくたびれたスーツを着た疲れた男たちが、車座で火を囲んで訥々と若い時に詠み損ねた詩の朗読会を開催していた。俺はそれを少し輪から離れて聞いた。日が変わると明日も早いんで失敬と彼らは散っていった。消えた燃えさしを手に入れた。

半年ぶりに旧友の荒野詩人に出会う。少し身ぎれいになっていた。近況を報告しあってお互いの稿料を探り合う。イカ足とか蝙蝠爪とか春ラッキョウとか意味を忘れた隠語が多いが、聞くのも素人臭いので不敵に笑って別れた。貸していた2000ポエットが戻る。


山賊に襲われるも俺の詩が書かれたTシャツを着ていたやつが俺に気が付いて助かる。なぜか悪党どもに俺の詩がよく読まれている。山賊専属の詩人にならないかと賊長から請われるも、俺は俺という国土をさまよう王だとうそぶくと、連中はたわいなく感心した。よく焼けた何かの骨付き肉をもらう


俺の担当編集者が装甲車を改造した移動出版車で現れ、鋼鉄のハッチを持ち上げて重版出来を叫び、乱暴に缶詰と領収書が入った木箱を投げ落としてすぐさま猛スピードで去った。練乳の缶詰を手に入れる。


廃線となった駅舎の椅子に俺が新人賞を取った時の記事が載った新聞があった。もうさすらって20年になるのかと少し驚く。写真に一緒に写っている文化大臣は何年か前に突如クーデターを起こし、王を僭称して地方都市を占拠。その町では俺の詩集は退廃的に過ぎると禁書扱いらしい。古い新聞を手に入れる。


闇肉屋がハムをくれたお礼に破棄された鉄道コンテナで暮らす浮浪児に詩を教える事になった。闇肉屋は盗賊に助けられたのち、少し会心したのか身寄りのない浮浪児を集めて世話を始めた。あの因業な肉屋がなぜと周囲がいぶかしんだものだ。浮浪児たちは文字も読めないやつらだが、喋れれば詩などは詠めるものだ。とりあえず隣の奴のあだ名をつけさせあう、荒ぶる鷲とか鉄の雨雲とか、これでなんとなくもうやり遂げた気分になるだろう。ハムを手に入れた。


ここいらで歴史と呼ばれている老鷲が俺の前に舞い降りて、来週死ぬので足首にはめられた追跡リングを取ってくれというのでそうする。歴史は満足そうにしわがれた一声を発して羽ばたいて飛んで行った。追跡リングを手に入れる。


妙に煙いと思ったら30億年まえには木など生えてなかった主張する原初地球回帰派が森を焼いていた。濛々と上がる黒煙と火の粉が舞い飛ぶ中、虫も殺さないような上品な老婦人がお茶に誘ってくれた。ティーセットやお菓子と共に、金縁の写真立てがり、生涯を森を焼く事に執心した老教授彼の優しい目が燃えている森をいていた。老執事が入れるため息が出るほど旨いミルクティーと、専属コック焼いたシナモンクッキーを食べながら一緒に森が燃えていくのを品よく眺めた。シナモンクッキーを手に入れた。


気が付いた時には俺も荒野さながらに老いていた。沼のほとりに数十年まえに乗り捨てたバイクに久しぶりにまたがってみた。なんとなく若々しい気分になる。顔見知りの小人の声楽隊が気を利かせたつもりなのかバイクをふかす音を唄ってくれた。何を思ったのか沼に住む白サギがナマズを一匹分けてくれた。


還暦祝いに文化省が俺を町一番のレストランへ招待してくれた。宮殿のような室内でシャンデリアの輝きが降る下、大臣や企業家たちが賛辞を垂れ流すが俺は荒野詩人らしく豚のように喰い続ける。嘲笑と敬意が溶け合う果てに誰もが謎の満足感を得た夜。お土産に巨大なガトーショコラをもらう

荒野の冬はまた殊更寒い。凍った泥土に躓いて頭を強かに打った時、ふいに遥か昔に詩人なった瞬間の事を思い出した。ある日俺が走獣のように街を駆け抜けていた時、何か非常にとんでもなく美しいものを見た、が次の瞬間俺は記憶を失って路上に倒れていた。何も思い出せないが直前の無形の雰囲気だけは覚えていた。絵にも描けない何かがあった。それをいまだに探している事を思い出した。折れた歯を手に入れた。

沼のほとりに半壊した水車小屋があって落ちた屋根の穴からスズメが飛び出ていく。朝だ。ほとんど割れつくした窓に曙光が差し込む。中にボロボロのソファーがあって半ばミイラ化した老人が眠るように座っている。その横で詩獣がすっと朝日に溶けていく。宙を舞うポワポワ毛をしわしわの手が柔らかくつかむ。まだまだ荒野詩人の旅は終わりはない。永遠にさまよう世界の発見者。 


今夜は流星夜だ。荒野の言い伝えによると古くなった星が一斉に地上に落ちてくるの日だ。夜空を縦横に軌跡を描きながら駆け落ちる様はこの上なく美しい。そして時折荒野に落ちた流星の轟が鈍く大気を伝わって肌を震わせる。意外に近い。そう思って、近くの小高い丘に登ると、数キロ先にキラキラしたものが漂いっているのが見えた。やってるなと笑ってそこへ小一時間ほど歩いて到着すると、飛行鍋に乗って流星で出来たクレーターを


照らして星のかけらを探す魔女や地響きをたてて巨大な泥のゴーレムが荷車に石を積み込んでいた。泥ゴーレムは魔女たちが好んで使う命を吹き込まれた泥人形で、簡単な命令をこなすくらいの知能がある。ぼっとその様子を見ていると、見知った魔女たちが近づいてきて、隕鉄を鋳込んだ鍋を買えという。星の霊気を宿しているので呪いの薬の効き目や料理の味に違いが出るらしい。ポケットに入るものしか持たない主義だ言うと、隕鉄製の魔女のスプーンを買わされた。2000ポエット失う。

どういう仕組みなのか、コーヒーにどんなに砂糖を入れてもこのスプーンでかき混ぜると甘みが消えてしまう。たぶん世界のどこかが甘くなってるはずだ。


山賊に襲われている肉屋のトラックを見かけたので、岩影からのぞきみると、この辺りで出所不明の闇肉を高額で売っている因業な男だった。肉屋は山賊たちに肉はやるがトラックだけは勘弁してくれと懇願しているが、山賊たちは笑いながら肉屋の身ぐるみを剝いでいる。賊の中に見知ったやつがいたので、やれやれと岩陰からでて肉屋とトラックは勘弁してもらった。さらに以後通行料の代わりとして定期的に肉を賊に渡す事にもなった。賊が去って肉屋は脱力していたが、俺が立ち去ろうとすると、わっと我に返って俺の手を強く握って感謝し、俺の為に最高の肉を用意すると言った。俺がよくわからない肉はいらないと断ると、肉屋は少し迷ったが、命の恩人を偽る事は出来ないと言って、驚くべき肉の秘密を打ち明けた。


ある日闇肉屋にトラックに乗せられて荒野でも特にさびしい場所にやってきた。ここは伝承によると美王国が誕生するよりさらに大昔、神々が争った古戦場と言われている場所だ。裂けた山や溶解した谷、点在するクレーター池など神工的な景観が続く。その中の山が半分崩壊したような場所につくと、肉屋は車を降りて崩落して折り重なった岩の間へ向かった。中は洞窟になっていて、人が通れるように片付け加工されていて、天井には等間隔に照明が設置してあった。トロッコが一本通っていてレールが奥まで続いている。肉屋はこちらでさとどんどん奥まで進んでいく。しばらく行くと明るい開けた場所に出た。そこには電車一両分もあろうかという巨大な腕が転がっていて、その周りを白い作業着を着た従業員が食肉加工していた。これが肉の元でげす。十年前ほど前に荒野で道に迷った時に偶然見つけましてね、毎日切ってもすぐにまた肉が上がってくるんでさ、すごいでげしょ?とパンパンと腕をたたいた。荒野の住人もうまいうまいと食べている肉がまさか神の腕とは思うまい。


以前助けた闇肉屋がハム(神肉ではない)をくれたので、その礼に破棄された鉄道コンテナで暮らす浮浪児に詩を教える事になった。闇肉屋は盗賊から助けられた後会心したのか身寄りのない浮浪児を集めて世話を始めた。周囲はあの因業な男がなぜといぶかしんだ。だが俺は神肉を食べすぎたせいで聖化が始まっているのではないかと思っている。浮浪児たちは文字も読めないやつらだが、喋れれば詩などは詠めるものだ。とりあえず隣の奴のあだ名をつけさせあう、荒ぶる鷲とか鉄の雨雲とか、なるだけかっこいいやつだ。それがしみ込んで混ざり合い滲み出てきて本当になればいい。浮浪児らのワイワイやっている姿をみて、もうやり遂げた気分になった。


以前の印刷原理派の長老に約束させられた俺の新しい詩集の見本が刷り上がったというので、活版谷三十六房の印刷屋のひとつ、銀のどんぐり舎に行く。安い割には質がよく、大抵の荒野の若い詩人が最初に出す本はここからが多い。活版谷の歴史は相当に古く、実は滅亡したかの美王国からの印刷技術体系の系譜にあり、職人的技術と美意識は帝国や王国の一流の出版社のそれに比肩する。ただほとんど信仰化されている中世期の印刷機構に依存し、ほぼ小人の人海戦術の手作業で行われるので少数部数しか作りえないのが難点といえる。だが一冊一冊心を込めて作るので書籍愛好家の間では評判が高い。今回、作っている本も原理派の連中に拉致された話を王国の編集者に話したら大ウケして、むしろ逆に話題になるぞと限定500部で作りなとよと進められたからだ。

老編集者と印刷部長と若いデザイナーらと見本を前にあれこれ話しているうちに陽が落ちた。


王国の編集が装甲編集車でやってきて、電子入稿の利点を力説した。気乗りしない俺に終いには懇願しながら電子端末と分厚い説明書を置いて帰っていった。まあやつも度々命をがけて荒野に来るのは嫌なのだろう。それに急速に進む現代印刷技術、昨今の電算機械を使った電気式印刷技術は高速大量印刷、高詳細、それでいて安価といいことづくめのように思える。旧来の印刷も味があって好きだが、時代と共に物事が進化していくのは仕方がないように思う。だがこの端末、そもそも何処で電気につなげばよいのか...などと考えていたら、道が急に陥没した。それが古典的な落とし穴だと気が付いた時は、すでに印刷原理派の小人に囲まれていた。彼らのアジトのひとつである地底湖の湖畔に太古の印刷機が祭られていて、俺はそこに連れて行かれて原理派の長老に真版(伝統的印刷方法の意)がいかに素晴らしく、現代の堕落版が駄目かを懇々と説かれ、端末と説明書は焼かれ、次の本は活版谷三十六房で作る約束をさせられようやく解放された。


夜中に目覚めたら珍しく詩獣が側にいなかったので、用足しついでに探してみた河原ですっきりしてから、


魔女飯を食わせてもらう

古代の東屋の遺跡で腹を空かせるも動くのも面倒だなと思っていたら、一羽のカラスが舞い降りて、先日の虹石のお礼として、我が家の主が粗餐を振舞いたいと考えております。お手数ですが、ボコ谷までお越しいただけますでしょうか?と言った。ボコ沼谷は地底からの硫黄臭い気泡がボコボコと噴き割れる辛気臭い所で、地熱が魔薬の調合や錬金に便利なのか大昔から魔女たちが好んで住み暮らしている。道案内のカラスが舞い降りた門に大錬金魔女ブフーブの館と虹石でメッキした文字がつゆ草の装飾にあしらわれて虹彩を放っている。カラスが一声すると、その向こうにある古びた館の扉が開いて若い魔女見習いが出てきて「お師匠様、詩人が来ました!」と館中に響き渡るような大声で言った。すぐにブフーブが現れ、にんまりと笑いさあさ入りなされとせわしなく館に入る。ブフーブは噂が本当なら齢二百歳を超えているというが矍鑠としたもので、窯の中でくるくると宙に浮いて丸焼きにされている野豚を自らとってきたという。「良い野豚が獲れたんでね、虹石で儲けさせてくれた、あんたにもおすそわけさ。うーん、アケやもう少し丁寧に塗りな」と若い魔女に刷毛でハーブ油を野豚に塗らせている。ほかに魔女のごっちゃ煮若返りシチューや百年発酵パン、荒野カニのクリームグラタン、美王朝時代の発掘ワイン、占いパンプキンケパイと盛りだくさんの料理がテーブルに並んだ。さあいただこうかという合図の声と共に、腹が減っていた俺はさっそく野豚の丸焼きのモモにかじりつく。魔女見習いたちにとっても、なかなかあり付けないご馳走らしく、競うようにガツガツ食べている。ブフーブはゆったりとパイプをくゆらせながら満足そうに俺たちのむさぼりを眺めている。たらふく喰って茶を飲みながら最近の荒野のよもやま話に花が咲いた。占いパンプキンパイの種は中吉だった。


古代の眠り姫を見に行く茨は植物学者が朝がしていたものだった。

聖化した植物学者に合う。



新人賞の賞金でバイクを買いに行き沼にはまる当時付き合っていた植物学者を載せて、少し聖化が始まっている。

森を焼く婦人と人形が茶友になる。


伝達小人が現れて、森を焼く貴婦人からお茶の誘いを頂く。小人に案内してもらい老婦人のキャラバンを訪ねる。久しぶりに会う彼女は以前より疲れて見えた。延々と森を焼きつつ荒野を転々とする事に耐えられる人間など中々いないだろう。相変わらずの執事のうまいミルクティーを飲みながら、少しでも憂さが晴れればと、荒野で起こる様々を、笑わせたり驚かしたりするうちに、草原の墜落機にいる喋る人形の話をしたら、老婦人がえっと鋭く息を吐いて、私、その人形と御ままごとをしたことがあるわと言った。なんでも子供の頃同級生の家に遊びに行った時に、その子が自慢げに見せてくれたらしい。そのからくり人形とは思えぬ精妙な z受け答えに驚いてものすごく欲しくて買ってくれと父親にせがんだが、古代の王国の遺物で一体しか存在しないらしく泣く泣く諦めたという。

老婦人がどうしても会いたいというので、装甲車を飛ばして草原へ。よく考えてみれば前に会ってから数十年経っているのだ、もう人形はいないのではないかと思った。爆撃機はまだあったが、腐食が進みただの茶色い岩に見えるほどに機体の破壊が進んでいた。コックピットのガラス扉は錆びてピクリとも動かない。白濁した硝子を袖口で拭て見ると、シートには雑草が生え、床には大きな水が溜まっていた。最初人形はもういないように見えた。しかしよくよく見ればシート端の吹き溜まりから手の一部が突き出ていた。

老婦人の部下達がドアを破壊して人形を救出した。人形は服がボロボロになっていて裸同然になっていたが、さすがの古代遺物故か、拭けば肌や髪はまるで今しがた出来たように綺麗になった。人形はしばらくして長いまつ毛を震わせて瞼をもたげ上げて青い瞳で俺たちをゆっくりと見回してから老婦人を見て小首をかしげ、あらあなた前に一緒に遊んだわね?と老婦人を驚かせた。覚えているの?という老婦人に、もちろん、一緒に遊んだお友達の事は忘れないわと優しくほほ笑んだ。その後老婦人は人形と一緒に帝国の自宅へ戻って、二度と森を焼くこともなく余生を平穏に暮らした。


ある日森を焼いていた老婦人が人形と共に装甲車でやってきた。執事が手早くテーブルセッチングして荒野のど真ん中でお茶会が始まる。人形は高級そうな絹の仕立服を着て特注で作られた流麗な椅子にちょこなんと座り、そしてこれまた老婦人とおそろいの特注の小さなティーカップに注がれた紅茶を前にごきげんようとあいさつした。何か妙な空気感が漂っており、それを割ってやろうと散歩ですか?と俺が二人に問うと、ティーカップを置いて一つ相談事がありましてと老婦人が人形に目で促すと、話を継いだ人形は語りだした。私はこれまでたくさんのお方の元で過ごしてきました。今も幸運なことに理解のある友人の元でのびのびと暮らさせていただいています。老婦人がほほ笑む。人形は続ける。過去の私と共に過ごした多くの方々の思い出は失われる事もなく共にあります。悲しくなる事もありますが、美しくもはかないのが人の生というもの、人形は諦観の達人でなくては務まりません。ただ一つどうしても心にひっかかった棘のように時に私を苛むのが、私の最初の主であった一人のお姫さまとの約束を果たせていない事なのです。どうか私の願いを一つ聞いていただけませんでしょうか?

私は古代美王国の最後の姫の為に王国の魔術の粋を集めて作られました。王女は体があまりお強くはなく、よく熱を出しては臥せっていました。たくさんの侍女や侍従がいましたが、友達と呼べるものはいない事をかわいそうにおもった王妃と大様が姫様の一番の友達になれるように作ったのが私なのです。お暇様はいたく私をお気に召していただき、いつもいつも一緒にいていろいろな話をしました。あまりにもいつも一緒にいるものですから王様がやきもちを焼いたほどでした。私が発動してしばらくして不意に神からの恩恵が途絶えました。王国が文字通り崩壊し始めました。神の恩恵の受け皿であった美麗な建築は逆に神の逆鱗に触れ灰燼と帰しました。あらゆる恩恵の機能が立たれ麗しの都は一夜にして瓦礫の廃都へと変わりました。私が恩恵が立たれても動いているのは、魔術の力を利用している為です。たくさんの方々がその混乱の中で命を失い、残された王族もこの地を離れて西方の遠国に逃れる事になりました。困難な旅になることが予想されました。とても姫様には耐えられない程の。それに遠国が移住するに適しているかもわかりません。王様はまずは遠国へ渡ってそこが大丈夫なら、姫を連れ戻るのがいいだろうと言いました。御妃さまは反対しました。何としてでも連れて行くべきだと。しかし王様はそれを容れず懇意の魔法使いの勧めに従ってある岩室で魔術で眠らせ、迎えに来る事にしたのです。姫様はお体は弱いですが、気丈な方で愉快な方でもありました。悲しむ御妃様に私は大丈夫ですから母上様はまずはかの地で安住できる新都をおつくり遊ばし、私がいつまでも怠惰できるお部屋を作ってくださいませとみなを笑わせました。それに私にはこの子がいますものと、私をなでてくれました。

王女は眠りバラの咲き誇る地底の東屋で眠りにつきます。私も一緒に眠りにつきます。王女は謂いました。私たちは一緒に眠って一緒に目を覚ましましょうね。と約束しました。ですが私は気が付いたら、どこの誰ともわからぬ人たちの間を転々としていました。どれくらい年が過ぎたのあもわかりません。何百年か何千年か。一体誰が私を持ち出したのかわかりません。王様は王女を迎えにこれたのでしょうか?お姫様はちゃんと目覚めることができたのでしょうか?そうある事を願います。ですがもしそうでなかったのなら。姫様はまだあの暗く寒い岩室の中で眠っているのかもしえないのです。お願いです。どうか姫さもの眠っている岩室を探してほしいのです。残念ながら場所はわかりません。ただ岩室の周りに茂っていたシダが



ある日、谷間の清流のシダの生い茂るうちを何する事も無く、歩いていると、草間の間からひょっこりと若い女が顔を出した。小人ではない人間の成人している女だ。もののけか魍魎の類だろうかと訝しんだ時女はメガネの奥の目をキラキラと輝かせてあっもしかして荒野詩人さん?と声を上げた。コクリと俺が頷くとズササとシダをかき分けて俺の手を取って新刊読みました最高でした、うおう本物だマジでばあちゃんの話通りのカッコだと言いながら俺の周りをクルクルと踊るように回った。女は王国の大学で植物学を専攻している学生だという。荒野の植生を調べに来たというが?共も護衛も無くここに来るの危険だからやめた方がいいよ盗賊とか怪物とか狂った神とかウロウロしてるんでと言うと。エーでもここは何世紀も前に絶滅した動植物が当たり前にいる巨大なタイムマシンなのすよー冷静に考えても来ないわけにはいかんじゃないスカ学究の徒が、あっじゃあ詩人さんがボディガードしてくれんスカ?今ちょっとやば目の行きたいとこあるんすよと捲し立てられ何故か次回の約束をさせられた。指切りげんまんをする。

植物学の学生と死の沼地にやってきた。大学の図書館にある700年前の植物分布図にこの辺りに彼女の探している植物があったらしく、葦が一面に生え靄が揺蕩う辛気臭い場所を朝からウロウロしている。いやあさすが死の沼、半端ねえですわ初めて見る葉ばっかですわ。まじ感動ちょっす詩人さんと背中に飛び乗ってあの辺が怪しいすね行ってみましょうと指さした。彼女の探しているのは葵という植物の一種で古い木版画のコピーを見せてもらったがなんとも地味な植物だった。俺がそういうとまあ確かに地味な見た目なんすけど、有名な魔術本には神級の効能って書いてあるから、中世じゃ特別な植物だったみたいすね。あっあそこの窪んだ岩の辺りらへんが怪しいっすなどと馬のように扱き使われて日が暮れたが成果はなかった。彼女が王国領境の村で蕎麦粉のハムチーズクレープをご馳走してくれた。


今日も学生と植物を探していると、編集が装甲車を乗りつけて、ああみつけたやっとみつけた...と地面にへたり込んでにたりと笑って、やりました去年出した詩集が受賞しました。今日、授賞式なのです後5時間しかない急ぎましょうと学生ともども強引に装甲車に押し込まれる。殆どギリギリというか遅刻して登壇し、最近荒野であった面白話をして会場を沸かせて、まあまあの賞金を手に会場を出た。近代的ビル群を見ていると不意に海が見たくなり、学生に海に行くけど行く?と問うと、いいすねというのでバイク屋で速そうな新車を買って、学生を乗せて南部の海へ下る。荒野とはまた違う心がざわつきつつも落ち着く波の岸に打ち付ける姿と音を見聞きを二人でぼっと見つめ、打ち上げられた海藻をいくつか拾って近く露店で貝の串焼きをむしゃむしゃ食べて、バイクをふかして来た道を帰った。王国領を駆け抜けてそのまま荒野に突き進み花を探して方々を走り回って、ハンドルを切り損ねて沼に突っ込んで二人とも泥だらけで岸にたどり着いて水没したバイクをみて大笑いした。殻の巻貝を手に入れた。


夜、月明かりの下廃墟の東屋で試作していると、ふと人の気配を感じて振り向くと植物学の学生がにこにこ笑いながら立っていた。こんな夜更けに来るのは危険だと言おうと思ったが、何かいつもと違う雰囲気を感じて、まさかと全身に寒気が走る。うす暗闇のなか、彼女の輪郭が薄く光っているように見える。聖化が始まっている?せいかとは荒野特有の風土病で人が人でなくなり荒野の一部となる不治の病である。だが荒野にいる人間がすべてかかるわけではなく千人に一人程度である。聖火すると社会せいは吹き飛ぶが反対に様々な超自然的能力を得る、食事が不要となり、水の上を歩き、動物と会話し、老いはするがほとんど不死となる。ただ人の理から外れ荒野の理の中に入り、その言語も感情も行動も常人には理解できないものとなる。俺は間違いであってくれと彼女に近づいてその瞳の奥底を見た、聖火したものはそこに星に似た輝きを見つけることができるからだ。奥底で揺れる小さな光を見て俺はへたり込みそうになったが、荒野の同胞となった彼女を優しく抱きしめ抱きしめた。


聖化した学生の家族が荒野との境界にある村に引っ越して来た。聖化すると荒野から離れてしまうと植物の成育環境が変わるとしおれるように衰弱してしまうからだ。彼女は村を出て日がな1日を広野に出て植物と戯れ続けたまに思い出したように家に戻る。荒野において聖化した人間を襲う賊も動物もいないし崖から落ちた位では死ぬこともない。丈夫になると言うより極限まで運が上がり傷一つつかないのだ。またその家は栄えるという。余剰の運が廻るかららしい。だから村の者などはむしろ歓迎したほどだ。家族は俺の事を快く思ってはいない、俺が彼女を荒野に引き込んだと思っており、一度など激高した彼女の兄にさんざん殴られ唾を吐きかけられた。今日も彼女は荒野を歩きまわっている。食事もたまに花の蜜を吸うくらいで、疲れることもない。どうもまだ例の植物に未練があるらしく地面を這いまっているので、全身は泥まみれだ。しばらくは彼女を見守ろうと思う。


人形の言っていた植物は聖化した学生の探しているものに似ているような気がしたので、気が乗らないが彼女の家に久しぶりに行く。数十年前には藁ぶき土壁の木造のつつましい家々が木々の間d片寄合っているような辺鄙な村だったが、いつの間にかガラス張りのビルがいくつも立ち並び高いコンクリの壁がぐるりと囲っていた。武装した警備兵に、彼女に会いたい旨を伝えるとじろじろと俺を値踏みしてどこかに電話をして待たされて数分、すぐに中に招じ入れられ綺麗な待合室で待つこと数分、前に俺をボコボコにした兄が高級なスーツを着てにこやかに現れた。いやあお久しぶりです。ご活躍しているようで、旧知の私どもも鼻がたこうございますよ。以前はちょっとした行き違いがありもみ合いになりましたね。お互いわこうございましたね。些少ですがお車代としてお納めくださいと、札束の入って封筒を後ろに控えていた秘書が俺の前に置いた。いやそうじゃなくて、彼女に会いたい旨を伝えると


聖化が進行すると、その影響は周囲にも及び始める。運のおすそ分け程度くらいならば、いいのだが、あまりに強くなりすぎると、そこに権力の介入が起こる。。彼女もまたそうで、あまりにも彼女の家族の繁栄ぶりについに王国側が彼女を取り込もうと動き始めた。故に彼女の家族は彼女を荒野の秘密の隠れがに隠しているという。兄はかなり渋ったが、もしかしたら、聖火を遅らせる手立てがあるかもしれないと、いうと、疑いながらも彼女の居場所を教えてくれた。


彼女は、荒野の研究施設というところにいるという、彼女の力の秘密を解明するために、家族が作った施設で、彼女はそこで大きな温室の中で植物に囲まれて暮らしているらていた。研究施設を訪れると、厳重なセキュリティチェックの後、要塞のような研究施設に入った。巨大な温室だった。まるでガラスの城のようだ。荒野のみならず、世界中の様々な植物が集められているようだ。その中に大きなため池があり、そこに彼女はいた。池の上の蓮の上で俺を見てにっこりと輝くような笑顔を見せて、大きな蓮の葉の上から立ち上がって俺のほうに歩みだした。水の上を

歩いている。随分と聖化が進行しておるらしい。彼女が何か喋ったが聞いたことない言語だった。そばにいた研究所員がいうには、彼女の作った言語ではないかという。俺の事を覚えているかときいたが、またよくわからい言葉で何事か言った。覚えているような、いなような。いやもはやそんな事はどうでもいい境地にいるのだろう。俺はポケットから植物の絵を取り出して彼女に見せた。彼女はほほうと言って喜んで俺の手をとり歩みだした。つれていかれるままに、植物の繁茂して居る中を進むと、彼女はたちどまり指さした先にあのh花が咲いていた。


この花はどこにあるのかという問いに対してか彼女はまたよくわからない言葉でなにごとかいったが、もちろんそれがわかるはずもなく、おれは途方に暮れた。すると彼女は地面に指で何かの模様を描いた。これはなんんだろうか?彼女は興味がなくなったのか、俺の頭をひとなでして、まるで消えるようにいなくなった。研究員がでは出口までお送りしますと俺を促した。

それを俺は紙にスケッチして研究所を出た。


盗掘師の住む村に向かう。彼らは荒野では美王国代の遺跡に最も詳しい。表向きは建築業の看板を掲げているが、実態は村長兼首領である大柄な男

基本荒野は無法地帯だが、それでも様々組織が存在してそれぞれに綱引きをしている。特に遺跡などを侵す盗掘しは、美王国時代を懐かしむ小人賊や、太古の魔術の研究をしている魔女連などと敵対関係にある。俺は小人や魔女と比較的うまくやっているので、スパイと思われたのかもしれない。長が重武装の手下を引き連れて、美王国時代の貴族の使っていたと思われる、美麗な応接セットのソファに座って俺をじろじろt観察してから、急ににxちょわらって、旦那、先日はうちのバカ息子たちがお世話になりました。とはがんしていった。

訳を聴くと、阿蘇の時ひまじんに襲われていた若者の中に彼の息子も交じっていたらしく、俺のおかげで助かったと長に話していたらしい。特に助けたというわけではなくただの成り行きだと説明してもいあやいやご喧噪をと聞く気もない。

所で今日はどういったご用件で?と長。俺がスケッチの書かれた紙を見せると、おさの顔が曇った。いやあ旦那、ここはやめたほうがいい、呪いが半端じゃない。何代もnあいだ内尾手を出したが、随分犠牲を出したんで、ここには手をつけるな俺の爺さんから言われてるところです。

これを知ってるのか?これは美王国じだいの最上位魔術結界の印ですよ。まあ警告にょうなもんでさ、簡単にいうとこの先に入ると死ぬってことです。いま現在、この文様がある場所はただ一つ、黄金谷っていう所です。

荒野とは

荒野――それは、リンダヴァルバリア帝国とキウェア共和国の間に広がる、終わりなき無の大地。

古くは「神域」や「無主の地」と呼ばれ、いまではただ「荒野」あるいは「荒地」と称されるのみとなった。


遥か昔、この地には強大な王国が存在した。だが、その奢りが神々の怒りを買い、栄華は一夜にして灰と化したという。

以降、数多の国家や勢力がこの地を手に入れようと試みたが、いずれも自らの領域が荒野に侵食されるという奇妙な現象に悩まされることとなった。


最終的に帝国と共和国は不可侵条約を締結し、この地を「アンタッチャブル・ランド」と定める。

そうして荒野は、支配の手を逃れたまま、時代の残滓と夢想家たちの吹きだまりとなった。


いま、この地には――

罪を逃れた犯罪者、掟を拒んだ無法者、土地を定めぬ遊牧民、理想に殉じた無政府主義者、道を探す放浪者、真理を求める芸術家、そして禁忌の知を追う科学者たちが暮らしている。


さらに、荒野には生まれながらに棲まう者たちもいる。

古代王国の使役ホムンクルスとして造られ、いまは自由に生きる小人族。

古の魔術を継ぐ魔女や魔法使い。

王国以前からこの地に根づいてきた土着神や地底人、数えきれぬほどの野生の獣たち。

そして、稀に人間が罹る風土病――聖化症に冒された者たち。

名も知らぬ、ただぶらぶらと歩くだけの謎の詩人も。


混沌と奇跡が交差するこの地で、詩人は今日もまた、新たなる物語を紡ぐ。

地平の果てを目指して、風のままに。


我は詩獣である。嘗てこの地にあった美王国にて生み出されし偏在式記憶保存体である。今しがた息を引き取ったこの者は私と対で運用されている現象受容出入力体でこの世のあらゆる事物を見聞き体感し詩的出力する使命を付与されている。美王国は美を神に捧げる事で恩寵を受け繁栄した。この詩人は自動化された美を捧げる人工生物。あらゆる局面においても美を見出すように設計されている。私はそれを記憶する。幾百幾千年も。しかし我らを作りし美王国もある時神の怒りをかって滅びた。生き延びた住人も遠く西の方に落ち我らはこの荒廃した地に残された。しかし使命は消えた訳ではない。我らは不滅。そのように作られた。さあ老いたる詩人よ今一度すべてを忘れてまた多感な頃から始めるのだ。

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